
QOLとの出会い
「QOL(生活の質)」という言葉を初めて知ったのは、高校の福祉の授業でした。
そのとき一緒に学んだのが「ADL(日常生活動作)」。
「1時間かけて一人で洋服を着る(ADL)より、その1時間を外に出て楽しむほうが幸せ(QOL)につながる」
そんな例えが印象的でした。
とはいえ、当時はまだ高校生。
“仕事に必要な知識”として受け止める程度で、その本当の意味を理解することはできませんでした。
それから年月を経て、認知症になった夫をサポートする今。
あのとき習った言葉が、生活の中で何度も思い出されるようになりました。
「なるほど、こういうことだったのか」と、実感とともに腑に落ちています。
考えることに時間を費やすよりも
認知症の夫・ヤシさんは、とても一生懸命に考える人です。
ただ、内容によっては、いくら時間をかけても答えが出ず、ただ疲れてしまうこともあります。
そんな姿を見ていると、「自分で考えて答えを出すことが、本当に幸せにつながるのだろうか?」と感じるようになりました。
そこで私は、「少し考えて難しかったら聞いてみてね」と声をかけるようになりました。
考えることを否定するのではなく、行き詰まったときに気軽に助けを求められるようにしておく。
そのほうが時間の使い方も気持ちの持ち方も、ぐっと軽やかになる気がしています。
自立とサポートのバランス
私たちはつい「自分のことは自分で」「人に迷惑をかけないように」といった価値観にとらわれがちです。
もちろん、自立は大事なこと。
でも、そのこだわりが強すぎて、かえってQOLを見失ってしまうこともあるのだと思います。
私自身、夫に対して「できることはやってほしい」「少しでも記憶力を保ってほしい」と願うあまり、難しいことまで任せてしまうことがありました。
でも結局、できなくてイライラしたり、夫も落ち込んだり…。
そんなときに思い出すのが「ADLよりもQOLを」という言葉です。
「今やっていることは、本当に私たちの幸せにつながっているのかな?」と、一歩引いて考えるきっかけになります。
探し物は一緒に、気持ちも軽く
気づくと夫が部屋をウロウロ。
声をかけると「スマホがない」「鍵がない」と探し物をしていることがよくあります。
日に何度も、時には数十分かけて…。
でも、私が一緒に探すと大抵2〜3分で見つかります。
「ない、ない、おかしい…」と長く探すのは、時間の浪費だけでなく、気持ちにも負担になります。
だから最近は「何か探してるの?」とこちらから声をかけるようにしています。
そして夫にも「僕の〇〇知らない?」と、気軽に助けを求めてもらえるようお願いしました。
自分から助けを求められることも、QOLを高める大切な一歩だと思うからです。
退職を迎えて
最近、ヤシさんは休職を経て、退職日が決まりました。
最初はショックで、経済的な不安もありました。
でも同時に、「これからの時間をどう活用するか」という課題も見えてきました。
ヤシさんには、人を安心させる優しさや雰囲気があります。
「いるだけで空気が和らぐ」と言ってくれる友人もいます。
お金を稼ぐといった目に見える評価だけにとらわれず、誰かと一緒に過ごすことで元気や安らぎを届けられる。
そういう持ち味を大切に、本人が実感できるような日々を一緒に作っていけたらと思っています。
おわりに
ADLは「できること」を測る大切な指標です。
でも、日々の幸せや充実感につながるのはQOL。
今できることは大切にしつつ、できないことにはこだわらず、そっと置いておく。
そんな関わり方を積み重ねていくことで、私たちの時間をもっと価値あるものにしていけるのではないかと感じています。

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